観音寺あけぼの山の会 関 加代子
ヒマルチュリの白い。 6,000mもの高さに眠る藤田さん。あなたは今、冷たい雪の中に横たわっているのですね。月の夜はあの光があなたのいる所をも照らしているのだろうかと思います。 雪の降る日には、あなたの上に積もる雪を想います。 雪を被った山を見れば,あの彼方にあなたがいるのかしらと思います。
「この人はいつ見ても,むさい格好しているなぁ。 ほんとに山男なんだなあ。」というのが最初の頃の藤田さんの印象でした。 それが、眼鏡の奥に光るやさしい目に気づき, 日に焼けた黒い顔からこぼれる白い歯と,あっけらかんとした気持ちのよい笑顔に魅せられて,私の目はいつの間にかあなたを追っていたのです。あなたの生き方,ひたむきで,一途で前向きで,迷いをはね返す力を持ち、誰にもやさしく、暖かで・・・・・・。 あなたの声を聞き, 見つめていられるだけで幸せでした。あなたを見ていると,私にも何かやれるかもしれない、そんな気になったのです。 でも、私があなたを追ってられたのは,わずか半年でした。 私には手の届かぬ人だったけれどもう少し後を追いたかった。もっともっと多くのことを知りたかった。 あなたと行きたかった山。 雪を頂いた八巻山, それから,夏合宿の後の盆踊り。 今年の夏はきっと同じパーティに入ろうと思っていたのにあなたとの思い出。 深淵キャンプ。 初めて一緒に撮ってもらった写真。 あれが最後の写真になってしまいました。 三野さんとあなたと, 万知子と私がいて、 あんなに平和であんなに幸せだったひとときが夢のようです。 一緒に走ってくれた有明の砂浜, 夕日がとてもきれいだったのを憶えていますか。
高松の港で,「元気で帰ってきてねーっ」と言ったら「また忘年会でねーっ」 と答えたくせにとうとう帰ってきてはくれませんでした。
忘れようとしていた思い出が,後から後から浮かんできてしまいます。 あなたを思いながらの長い長い冬が今、ようやく終わろうとしています。
ヒマルチュリ、美しい響きの名を持つ山が藤田さんを奪った憎い山となってしまいました。 藤田さんのやりたかったことはまだまだあっただろうに。多くの気がかりを残したまま, 逝ってしまったのですね。 家族のこと仲間のこと 仕事や山登りのこと そして・・・・・・。
安らかに眠って下さいなんて言葉はあなたにふさわしくない。さよならは言いません。いつまでもいつまでも、ヒマルチュリで生きていて下さい。