坂本直行のスケッチブック
寄贈されたスケッチブック136冊の表紙と背表紙には直行自身がスケッチの場所、年月日を、さらにスケッチ1点毎に対象の地名・山名・花の名等と月日が、場合によっては時間を記し、一見してスケッチの場所、対象、時期がわかるように整理されている(下の写真)。
直行が居住した地域ごと(年代ごと)にスケッチブックを仕分けすると以下のとおりである。33歳の「日高山脈」から76歳の「神威、烏帽子、百松沢南峰」まで、2500点超のスケッチ群はまさに直行の履歴書である。山が単なる風景ではなく、「生きた山」であった直行の人生に接することのできる貴重な資産である。
- 下野付開拓時代(1936年〜1960年)10冊 スケッチ数 243点
- 豊似市街時代(1960年〜1965年) 46冊 798点
- 札幌宮の沢時代(1966年〜1982年)73冊 1427点
- その他(時代不詳、図書の挿画、人物画など)8冊 70点
坂本嵩氏(直行二男)は直行のスケッチブックについて次のように述べている(「坂本直行スケッチ画集」1992年8月ふたば書房刊)
“父が逝ってから、私はアトリエの戸棚を開けてみて驚嘆した。大版のスケッチブックが何百冊も整然と並べられ、表紙や背には描かれた月日、場所などがメモされていた。私は、この時初めてスケッチブックを手にとり、ゆっくりと見ることができたのである。それらは大部分が着彩され、日記風の書き込みがあった。”
何百冊もあったものが最後に140冊弱となったことには様々な事情があったと思われるが、それがどうあれ、残されたスケッチは生き生きとして魅力にあふれ、直行と共に山を愛する我々を存分に楽しませてくれる。スケッチ2534点の中から時代を追って、直行の見た山のほんの一部をご覧いただく。
絵と登山が苦しい生活の中での純粋な喜びであり楽しみであった開拓時代の、細部の写し取りに注意を払った繊細な線が特徴の風景と開墾生活のスケッチ、原野を離れ、画家として生計を立てるようになってからの大胆で骨太な稜線と色使い、その大きさを見事にとらえたヒマラヤ、晩年のどことなく頼りなげな、それでいて引き込まれるような温かさを感じる線と色。スケッチ1点1点から、それが例え稜線だけのスケッチであっても自然と対峙する素朴な喜びが伝わってくる。
"坂本さんの絵を見せて貰って” 峰孝 1956年6月17日(坂本家お宿帳3号より)
白い山の絵
坂本さんの山の絵は氏の山に対する愛情がしみじみとにじみ出ています。やはり命がけで大自然を愛されている事を私は絵を通じて知り、ほんとうにうれしく思いました。絵の中の山はただの絵ではなく、それは大地から大空にそそり立つ一つ一つの峰が正確につかまれており、その山は坂本氏なら歩けるがとても私たちに登れない美しいけわしい山々です。
静かに眺めていると、いつか私はその大自然の中に入ってゆくのを感じます。さすが三十年の年月を経て得られた氏の尊い生活が作り出した画面であると私は一彫刻家として、絵を通じて立派な氏を知ることができました.
北大山岳館は、スケッチのすべてをデジタル化し、画像アーカイブサイトを通じてネット上で閲覧できるようにしている。
坂本直行生誕110年記念企画展示「直行さんのスケッチブック」展
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坂本直行の版画 |
直行さんのスケッチブック展 |