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記事・消息・ 2024年1月8日 (月)

【読書備忘】雪崩の掟 若林隆三(2007) 米山悟(1984年入部)

1990年代に、バックカントリーという言葉が流行り始め、スキーエリア外遭難が増え、雪山登山者に加えてエリア外滑走愛好家に雪崩レスキューや弱層テスト講習などが盛んになった頃、新田(若林)さんに札幌で、信州で、何度もおあいした。1995年1月の千畳敷での雪崩遭難事故の際にも、いち早く現場に駆けつけていてお会いしたのを憶えている。その後、信州大の演習林での研究ぶりを学生たちから聞いていた。ゆっくりと穏やかに話をされる方だった。


松本の古書店で見つけた。1940年生まれ、2022年末亡くなった、新田改め若林隆三氏の2007年の刊。氏は北大山スキー部OBの雪崩研究者。50年近く雪崩研究の最前線に居続けた。雪崩とどう付き合うか?は登山愛好家にとって果てしのないテーマだ。

登山実践経験者が多い雪氷学界の中でも、極めて登山実践者的立場だったと思われる氏の、生涯通じた雪崩研究人生の総まとめ的な一冊に思える。親しみやすい文体で数々の雪崩事例を読ませる。長期間の研究人生を踏まえてはいながら、内容の殆どは2007年直前の大きな事例が解説されている。



▼富士山スラッシュ雪崩の「新発見」は、以前から伝えられていた富士山の「雪代」の実態を世に知らせた。デブリの融雪が早く、すぐに観察しなければその惨状の実態がよく伝わらなかった特殊なシャビシャビの雪崩のメカニズムについて。北大山岳部OBの安間荘氏らとの研究についてまとめられている。

▼重度の低体温症遭難者のレスキューでは要注意の「再加温ショック」について。2006年の救出時仮死状態から適切なケアを施されて4時間後に蘇生した手当の最先端の話。山スキー部OB船木上総氏の「凍る体(2002)」など、手足のマッサージなどは厳禁、という常識はこの頃からだったように思う。

▼2000年の大日岳雪庇崩落事故事例には雪庇断面の空隙やすべり面などの研究などを紹介、当地での現場検証も行った。「32mの雪庇」って意味が分からなかったけど、この解説を読んで了解した。氏は毎度、講習で雪庇断面を切って雪の層を着色し、自ら乗って雪庇崩しのデモを行っていた。
▼2006年岳沢雪崩についても詳述あり。雪崩に見舞われる他の山小屋の事例も多数。小屋が雪に埋まっていない、稜線には大雪が降った12月に小屋が全壊するような件が多いとのこと。
▼終章は栂池の雪崩が育む森林の新陳代謝の話。老木巨木は日を塞ぎ、若い木や下草が生えず、雪崩がこれを一掃してくれると。新田(若林)さんは、雪崩は美しいと折りに触れ話していた。

雪崩、低体温症、雪庇などに関しここ数十年でゆっくり認知されてきた意外な事実の、同時代的で先進的な視点がよくまとまっている。この本の終章でも、雪崩は不吉なだけのものではなく、希望や未来へつながる山の呼吸のひとつなのだと。人の都合だけで見るものではないのだと語っている。

亡くなったと知ってから読み返す著書は格別です。生き返って話を聞いているかのよう。
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