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95ブニ-ゾム峰西面-West face of Buni-Zom »

行動記録 -登山記録-(斎藤、田中、本多)

8月2日;晴れ

 朝から、クラクマリ岩壁のルート工作。ルートは岩壁帯に向かって左側にあるハング状の涸れ滝の左側にある、右上するバンド。1ピッチ目、田中が階段状の所を15メーター登る(III〜IV級)。次に斎藤がトップで登ると、8メーター程の微妙なトラバースがあり、その上のかぶり気味の所を越し、浮石の多いルンゼを10メーターを登ると岩峰の頭状の所に出た(III〜IV級)。ザイルを外して、そこから60メーター登ると急なガレに出た。ここでいったん引き返した。2ピッチ目の終了点にハーケン、及び岩角にて支点をとり、1ピッチ目の終了点までまっすぐに下りるルートをアプザイレンした(20メーター)。1ピッチ目は登りと同じルートをアプザイレン。
 BCで昼食をとった後、午後は田中、三瓶でルート工作。午前中に登ったルートを登り返し、フィックスロープを固定する。安全に、スムーズに荷揚げが出来るように2ピッチ目の上もずっとロープを固定する。田中がロープの固定作業を行う間に、三瓶が上のガレの上を偵察する。
 他の隊員は岩場の取付きまで荷揚げをおこなう。

8月3日;晴れ夕方風強し。

 斎藤、田中、辺見にてガレを登る。ガレと右側の岩とのコンタクトライン沿いを200メーター程登ると、上をふさぐ様にして岩が現れた。そこでザイルを出して40メーター程右上した。そこから200メーターほど登ると、延々と続くガレにたどり着いた。
 その後、斎藤、辺見の2人は、そのガレを登りコーラボルト氷河の舌端のC1予定地まで偵察した。他の隊員は岩壁の荷揚げ。

8月4日;小雨のち曇り。

 全員で岩壁を荷揚げ。その後、コーラボルト氷河末端にC1設置(4750m)。斎藤、三瓶で氷河の偵察を行うが、とても歩きやすい氷河でびっくりする。

8月5日;雨のち曇りのち晴れ。

 全員でC1への荷揚げの後、各自5000mまで高度順化のために氷河を登る。全員、C1に泊まる。氷河の上に月がポッカリと浮かび、月見をする。

8月6日;晴れ。

 全員でコーラボルト氷河を登り、氷河途中の5120mにC2を設置。ここまで来るとブニゾムの主峰、北峰が正面に見え、谷を隔てた向こうにティリチミール、イストル・オ・ナールの7000m級の山岳が望める。この日のうちにBCまで下り、翌日から2日間を休養とする。

8月7日;晴れ夕方風強し。

 氷河の濁流で服や身体の洗濯をして、後は終日、読書やトランプばくちで過ごす。リエゾンの祈りの雄たけびが荒涼とした谷間にひびきわたる。

8月8日;早朝雨後晴れ。

 完全休養2日目。

8月9日;晴れ気温低し。

 全員でC1へ移動。

8月10日;晴れ。

 全員でC2まで荷揚げをしてそのまま泊まる。

8月11日;晴れ午後みぞれ降る。

 C3に至る氷河源頭部、核心の懸垂氷河にルート工作。フィックスロープを引きずりながら、辺見がトップで登る。氷壁の傾斜は40゜〜60゜。アイゼンは良く利くが、ピッケルやアイスハーケンを深く刺そうとすると氷が割れる。アイススクリューは良く利いて安心できる。この日、コルまでは到達しなかったが、氷河上にC3設営ポイント(5900m)を見つける。ここまでフィックスロープや6ミリロープなど300メーターをフィックスした。
 午後になり気温が高くなると、氷の上を水が滝のように流れ出す。午前中にセットしたアイススクリューなども手で簡単に抜けてしまうくらい、ゆるんでくる。再び、セットし直しながら、氷壁を下る。C2に戻って泊まる。

8月12日;快晴。

 全員で懸垂氷河を登る。フィックスロープは夜の間に凍って、氷壁に張り付いている。それをばりばりと氷壁からはがして、ロープに付いた氷を落としながらユマーリングする。氷河上のベルクシュルントをテラス状に削ってC3を設置する。右方で切れ落ちるブニゾムの北西壁は絶望的な岩壁だ。目指す主峰の北稜は雪のリッジが上部まで続いており、登攀可能な様相を呈している。只、予想以上に細く、手強そうだ。反対側の北峰へは雪面をたどって楽に登れるだろうと確信する。午後になると強烈な紫外線を伴う直射日光にさらされる。笑えば唇が割れ、血がしたたる。全員が軽い日射病気味だ。比較的元気な斎藤、三瓶、辺見がC3に泊り、明日、主峰の試登を行うことにする。ただし、クライミングロープをクラクマリ滝岩壁で余計に使っているため、手持ちが少なく、フリーで行けるだけ試みて、だめなら頂上直下のルートの偵察をした後、一旦コルに戻って北峰に登頂する作戦とした。本多、清水、田中はC2まで引き返した。

8月13日;快晴。

 斎藤と三瓶と辺見はC3から懸垂氷河を抜け、予定通り主峰への稜線に取り付く。ルートは両側が切れ落ちた細いリッジが続き、左側に雪庇が大きく2、3m張り出している。右側は風化した花崗岩が、数本の急角度のガリーを伴い、下方の氷河まで切れ落ちている。
 稜上はカニの横ばいのごとく雪庇の反対側の雪面のトラヴァースと直上の繰り返しで進んていく。6100mに入った地点でややラッセルがでてきたと思った瞬間、3人ののった足元の雪面にドスッという音とともに亀裂が入る。気持ちが悪くなって一目散に引き返してしまった。主峰へのルートはその先も岩の混じった細いリッジが続いており、次のアタックは帰りのことを考えて手持ちのロープが100mは必要だ、いや、この状態じゃ雪庇側の深雪をまくのは危険だ、そもそもこんな厳しいと思わなかったぞ、やっぱりリーダーにだまされた、などと話しながら目を反対に向け、北峰に転進。
 一旦コルに戻ってから北峰へは傾斜の緩い、氷化したペニテントスノー状の上にアイゼンを利かせ、ひたすら登る。時 分、北峰に登頂。眼下にマスツージ川に沿う緩やかな波状地形が広がった。カラコルム、ヒンズークシュの展望を楽しむ。北峰登頂隊はその日のうちにC1に下りる。
 この日、本多、清水、田中はC2にて待機。田中は暇なのでC2周辺の小ピーク(パノラマピーク;5700m)に単独で登った。ピークには錆びたピッケルが残置されていた。終日快晴であった。

8月14日;快晴。

 C2から本多、田中、清水が北峰に向かった。斎藤、三瓶、辺見はC1からC2へ食糧を荷揚げし、そのまま待機した。本多、田中、清水は 14時北峰登頂。しかし下降途中で本多に高山病の初期症状が現われ、大分遅れた。そのままC3に着いて横になると動けなくなった。田中、清水はC2に待機していた斎藤らと無線で連絡をとり、相談の結果、とにかく今日中に無理にでも降ろして下の氷河上に泊まらせることとし、三瓶、辺見がサポートに向かった。本多は田中、清水の協力で懸垂氷河のフィックスロープをつたって下降を繰り返し、日の暮れた頃、下の氷河に降り立った。そこでしばらく休養している間に、本多の病状も回復し普通に動けるようになり、全員C2まで戻った。

8月15日;晴れ。

 全員がBCに戻り、2日間の完全休養に入る。

8月16日;晴れ後曇り一時雨。

 BCで休養。パルガム村の男達が野菜、羊、鶏を売りにやってきた。

8月17日;曇り時々晴れ。

 BCで休養。最後の攻撃に備える。

8月18日;晴れ時々曇り。

 斎藤・本多・辺見はC2へ。田中・清水はC1へ。三瓶は会社の休暇の都合があり、翌日一人で下山、帰国の途についた。クラクマリ滝岩壁のフィックスロープを数本回収し、頂上攻撃のために持っていく。この日、C2直前で辺見がヒドゥンクレバスを踏み抜いて10m落ちる。その時すでにC2に到着していた斎藤・本多に辺見のおたけびが偶然にも届き、ザイルで救助される。幸い尻の軽い打撲ですんだ。この氷河はクラックなどの障害が少なく歩きやすいとはいえ、侮りすぎたと反省。以後このようなことのないように互いに監視できる距離で行動することを決めた。

8月19日;快晴後曇り。

 斎藤・本多・辺見は、C3へ。強い日差しのために懸垂氷河のフィックスロープの支点は全て緩んで一部は完全に外れていた。それらを再び打ち直して登る。田中・清水はC2へ。

8月20日;晴れ。

 斎藤・本多・辺見は、主峰へ延びる尾根に再び取り付いた。前回の到達点を越え、核心部の登攀に入る。高度を上げるにつれ深雪となり、膝までもぐるブレイカブルスノー。重い軟雪を膝で押して足を踏み出す繰り返し。急なナイフリッジには締まりのない雪がついており、手で払いのけて這うように進む。ルートは6400m地点にちょっとしたピナクルと岩稜帯がある。岩稜を忠実にたどるのは技術的に難しく、我々にはゴールドハン氷河側の雪壁をトラバースして直上するルートしか選択はなかったが、その抜け口の雪面上部には雪庇が発達し、亀裂が走っている。これより先のルート全体に雪崩の危険性を感じ、ここで引き返しを判断する。ピークがすぐ目の前に見えるのが残念だがここはあっさりと降参することにする。一方で、我々の技術で良くここまでこれたとも思う。帰りもこれまでの緊張感を維持するため、暫し休憩するため狭いリッジに腰を下ろ した。乾ききった喉に紅茶を流し込んだ。
 上部の雪質の状況は、表面がうすいサンクラスト。内部は足で踏むことにより10?cm程の深さのステップができるが、荒いザラメ雪できわめて崩れ易い。降雪からおそらく5?日目である。さらに、下部の緩傾斜の部分に比べ、ザラメ化が激しく異なっていた。
 サポートで上がってきた田中、清水と無事にC3で合流し、C3を撤収。全員で懸垂氷河のフィックスロープを撤収しながら下る。C2に着く頃には暗くなっていた。暗い夜空に、どこかでどんぱちやっているらしい爆弾の閃光が遠くに見えた。

8月22日;晴れ。

 朝、ゴミを燃やして、山を眺めてゆっくり出発。重荷のため全員がヨロヨロしている。クラクマリ滝岩壁下にはコックのファキールとゴルザールが迎えにきてくれた。BCに着いてホッと一息。

8月22日;晴れ時々曇り。

 前日撤収できなかったクラクマリ滝岩壁ルートの全ての登攀具を回収し、登山活動を終了した。
 
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