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92カムチャツカ第二次遠征 »

ハラーショ

本多 和茂


 何よりもみんなとても明るい。それが僕の第一印象でした。気難しくてどこかとっつきにくい。そんな僕の勝手な先入観からくる不安はカムチャツカ上陸とともに消え、この短い遠征中でもロシア人のスタッフととても暖かい関係をもつことができました。とても明るく親切にしてくれたロシア人のスタッフ6人には感謝しています。

スタッフの隊長コーリャ。彼のことを名前で覚える前「こぶとりじいさんみたいな人」と呼んでいたのを思いだします。小柄でがっちりした男で、最終日の夜、酒を飲んで意気揚揚と“カチューシャ”を歌ってくれたのを思いだします。

 ベースキャンプでコックをしてくれたアーラおばさん、唯一の女性で、正に「母は強し」といった感じの女性でした。とてもおしゃべり好きで、いつも料理をしながら独り言のように話すロシア語。もちろん僕らには何を話しているかは分からないのですが、なにかとても暖かく、親しみを覚えるのでした。お茶のできあがりの時に「アイン・ツバイ・ドライ」とおまじないをかけておどけてみせる姿や、食事をおかわりした時の彼女のうれしそうな笑顔は忘れられません。

 何より忘れられないのが、最終日の夜、お酒を飲みながら僕が「アーラおばさんのように料理がうまい人と結婚したいもんだ」と言ったのを通訳が「彼はアーラおばさんと結婚したいといっている。なぜなら美しくて料理がうまいから」と訳して、アーラおばさんがてれくさそうに、「年が違い過ぎるから結婚はだめだけどいつでも養子にしてあげる」といってくれたことです。まあちょっとした笑い話ですが、もしアーラおばさんがもっと若くて独身だったら何て答えてくれたんだろうか?とふと考えてしまう。そんな魅力のある女性でした。

 一方、陰ながら彼女を助け、僕らのために素晴らしい料理をつくってくれたバーシャ。物静かな感じで、いつも言葉すくなに、僕らの食事風景を優しく見守ってるそんな感じの人でした。「ミスターホンダ」となれない英語で僕を呼びにこにこしながら差し出すハラショーポーズには彼の優しい人柄がにじみ出ていました。

そしてボーリア。この男程、ボディーランゲージのきまる人もなかなかいないんじゃないかと思いました。目が合う度に、にこにこして何か言ってくれるのですが、その笑顔、表情だけで何か伝わってしまう。そんな感じの男でした。彼は別れの空港で何も言わず、初めて見せた悲しそうな表情で、肩を組んで、頭をコツンとぶつけてくれた時、本当に別れのつらさ、名残惜しさに胸がつまり涙をこらえたものでした。

 通訳のバレーリア。彼はロシア人ながらのりはアメリカ人といった感じのとても陽気な男でした。僕らの歌った歌を一生懸命覚えようとしたり、ことあるごとに親しげに話しかけてきてくれたり、僕らと少しでも多く、コミュニケーションをとろうとする真な姿が印象的でした。彼とサングラスを交換し、次の日空港で肩を組んで取った写真は僕のお気に入りの一枚になっています。


イチンスキーで見た熊の足跡

 最後に「ライクメスナー」とぼくらがよんでいたフェージャ。彼とは親しくなればなるほど、本当にいい奴だなと思えてくる。そんな感じの人でした。彼が僕らにカムチャツカの思い出にといってかついできてくれた石。その中で一番大きかったのが、今僕の部屋にあります。僕らがもらおうとしたとき慣れない英語とゼスチャーで「一生懸命運んできて誰ももらってくれなかったらと心配していた」といって「Especially for you」とうれしそうにしていた彼の笑顔がわすれられません。 別れの時、「Mountaineering is not my hobby. It is my life.」と笑って見せた彼。正に彼にぴったりの言葉でちょっぴりうらやましく思いました。

 以上ロシアのスタッフについて書きましたが共通していえるのは、みんな本当に笑顔がとても美しい。笑顔は世界共通で、言葉以上のコミュニケーションを果たすものだということを実感しました。
 そんなロシア人のスタッフの笑顔にわすれかけていた、そして心のどこかで探しつづけていた本当の優しさを見つけ、そして出会えた。そんな気持にさせてくれたのでした。


君と来たい場所


今、僕がいる場所
君のあの笑顔が目に浮かぶ場所
澄んだ君の瞳を思い出す場所

あくせくしない場所
君がかつて憧れた都会のネオンとは
反対の場所
君は何をしてる
僕の手帳のスケジュールはここ数日
真白なんだ

君と来たい場所
何の言葉もいらない場所
すいこまれそうな青空と
ゆっくり流れる雲
遠くの山々が
やさしく目に入ってくる場所

時間の流れが、すうっとそよ風に
とけていくような
そんな場所

優しくなれる場所
素直になれる場所
生まれてきた喜びを
生きている喜びを
ゆっくりと吸い込む
深呼吸の中に

君と来たい場所
目に見えるもの以外何もないけれど
君と来たい場所

君と来たかった場所
今、僕のいる場所

今は亡き親友に贈る

   カムチャツカにて


 
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