切り抜き詳細
- 発行日時
- 2022-1-25 11:47
- 見出し
- カムイエクウチカウシ山南西稜単独行(農屋〜カムエク〜1823峰〜コイカク夏尾根〜中札内)
- 記事詳細
- カムイエクウチカウシ山南西稜単独行(農屋〜カムエク〜1823峰〜コイカク夏尾根〜中札内)(積雪期ピークハント/縦走/日高山脈)日程:2022-01-04〜2022-01-11メンバー: nrtk7写真:神々しい日の出いつもならここで終わりだけど今回はここからバス停まで28kmΩ3からコイカクヤオロ1839。ピーク神々しいコイカク北面一番の核心と言われているところカムエク南西稜核心部手前から振り返るピークまでの登り染まる稜線核心部を振り返る1839はガスってたまたね1823これから行くところカムエク南西稜核心部1823ピークから飯田が歩いた西川尾根♯上に遭遇日の出コイカクピークガスガス感想: 年末年始はなんか天気が悪そうだったので日和って下界(と山小屋)で友達と酒を飲んでまったり過ごした。しかし、街で過ごしていると次第に心の中に鬱々としたものが溜まっていき、自分がとてつもなくむなしい存在に思えてきた。後輩達の貫徹報告などがメールで流れてきて、その溜まっていた何かが爆発しそうになり、このままだと死ぬ、とすら思えたので急いで山に行くことにした。 去年の南日高単独行はデナリを抑えて人生で最もつらい山行だった。そしてあまりにつらかったので、この時期の日高はもう二度と行かないと心に決めていた。しかし、今こんな気分のときにどこへ行きたいと自分の心に問いかけてみると、その答えは日高だった。じゃあ、どこを歩く?正直、日高の支稜、主稜線はもうほとんど知り合いが近年歩いてしまっており、もう目新しさ、珍しさを求めてこの山域を歩くのは不毛だと感じていた。ならもう誰かが最近どこを歩いたとかは気にせず、自分の歩きたいラインを歩けば良いじゃないか。そうなれば、自ずから標的は定まった。3年目の冬、カムエクピークから眺めた南西稜だ。下山は札内川に下りよう。なら八の沢左岸尾根や右岸尾根で早々に稜線から下りてしまうのは勿体無い。コイカクまで歩いてしまおう、とぼんやりと思い描いて出発することにする。ちょうど3年目のカムエクで会った羽月さん五島さんの山行から1839峰Atを抜いた、下位互換みたいな山行になってしまうが、もうそんなことは気にしない。今回もテントは邪魔になる気しかしなかったので置いていった。また、ロープも荷物になる気がしたので持っていかなかった。1/4 曇→晴 静内ダム(1400)高見ダム(1645)般別大橋(1800)=C1 農屋バス停から歩き始める。歩き始めてすぐに通りかかった車に静内ダムまで乗せてもらえた。ガイドの方だそうだ。感謝。数時間歩いて日が沈んで暗くなるが6時までは歩こうと決めて歩き続ける。暗闇を歩くと精神が下向きになる。般別大橋手前でツェルト泊。狐が寄ってきたのでストックを振り回しながら奇声を上げて追いかけ回したら消えていった。ツェルトが狭く、寒くて早くも帰りたくなる。1/5 晴 C1(600)高見橋分岐(800)ナナシ沢出合付近(940)清和橋(1330)Co750(1500)=C2 2時間程林道を歩いていると作業車に追い越された。完全素通りだったのでまあそういうもんだよなと思っていたら、しばらくしたら戻ってきてなんと除雪終点まで乗せてくださるとのこと。圧倒的感謝。除雪は昨日今日で入っているらしく、ナナシ沢を過ぎた橋のところまで。去年の野村さん岡崎にも会ったらしい。除雪終点から歩き始める。ラッセル脛。林道ラッセルという単純作業を繰り返していると、負の思考のスパイラルに陥ってくる。自分があまりにもみじめすぎて泣きそうになった。こんな奴なんて山奥で人知れず無くなってしまえばいいのにと縁起でもないことを考えた。工事途中で放棄された千石トンネルや、2停滞した清和橋など、3年前の夏メインを思い出すオブジェクト達を見て感慨に耽る。斜面に取り付くとラッセル膝〜腿。やはりここ数日で結構積雪があったようだ。微尾根上の平坦地にツェルト張ってC2。1/6 快晴 C2(700)Co950(830-845)Co1160(1330)シカシナイ山直下Co1600(1530)=Ω3 相変わらずラッセル膝〜腿。でも山に全身でぶつかっている気がして心地よい。思わずニヤける。とか思っていたら腰ラッセルになったりして流石に閉口。Co950で尾根に合流。ラッセルましになるかと思いきや膝〜腿ラッセルが続く。令和4年初吠え。全身運動をすると向精神作用があるのか、昨日とは打って変わってなんだか楽しい。吠えながらもルンルンでラッセル。躁鬱病なのだろうか。Co1160でシカシナイ山への登りが始まると急に雪が締まって歩きやすくなった。どんどんペースを上げてシカシナイ山直下の吹き溜まりでイグルー作ってΩ3。制作1h。振り返ると23〜ヤオロ、そして39。あまりにもいい景色なので夕日に染まる39を眺めながらウイスキーを飲んだ。うますぎる。1/7 ガス→雪 Ω3(730)1810ポコ手前(1210)=Ω4 予報的にカムエクのっこしは微妙そうだとゆっくり支度。イグルーから這い出ると意外と視界500ぐらいある。シカシナイ山からの稜線はそんなに埋まらず快調。天気も高曇りになっていい感じ。主稜線も全部見えた。ナイフリッジっぽいのも何箇所かあったがスノーシューでいけた。手は一応ピッケルにした。これはカムエク越えられるかもねと思っていたらいつの間にかガスガスになって雪が降り始めた。 歩きながら、登山やクライミングはつくづくオナニーだなあと思う。なら、ピオレドールはその年最もすごいオナニーをした人達で、山野井さんはすごいオナニーをし続けて殿堂入りを果たしたってことだな、とかしょうもないことを考えて一人ニヤニヤする。俺もすごいオナニストになりたいものだ。 ・1821の登りで急で硬くなったのでEP。氷化した斜面にアイゼンとピッケルが心地よく刺さる。・1821で視界100程度。時間的にも視界的にも微妙なのでこの少し先で泊まることにする。ここからの稜線はズボズボ。視界もどんどんなくなって100~50になった。1810ポコ手前で稜線のキワもよく見えなくなったのでここまでとする。適当な吹き溜まりにイグルー作ってΩ4。停滞するかもしれないので広めに作って制作1.5h。1/8 ガス、雪 Ω4=Ω5 気圧の谷の前面で一瞬晴れたりしないかな〜、と早朝にイグルーから出てみるが、安心のガスガス。おうちに逃げ戻る。とっくに心は停滞モードになっているが、最善を尽くした感を出したいがために往生際悪く1時間おきに外を確認するも、変わらずガスガス。停滞じゃ!と叫んで靴を脱いで寝袋に潜り込み酒を飲む。1/9 晴→ガス Ω5(900)カムエク(1130)ピラミッド(1230)・1602(1330)=Ω6 イグルーの出口が1.5m程吹き溜まっていた。7時にイグルーから出るとガスガス。カムエク方面に向かって叫ぶ。すると、それが通じたのかみるみる内にガスが消え去って晴れてきた。テンション爆上がり。カムエク方面はまだガスっているが、これなら行ける。荷物をパッキングして出発。 稜線は概ね十勝側に1m程の雪庇。判断は特に難しくない。所々細いところもあるが特に問題なく・1848まで。ここからが核心だ。天気はすっかり良くなり、カムエクピーク付近にはガスがかかっているものの、それ以外は全て見える。岩稜やギャップなども見えた。雲を纏った稜線が美しい。核心部は岩稜を十勝側を捲いたり上を行ったり。少々急なトラバースやクライムダウンもあるが、アイゼンピッケルの決まりはよく、さほど緊張せずに快適に通過できた。ちょっと急なところをクライムダウンすると、いつの間にか核心部は終了していた。あとは息を切らしながらカムエクへの急登をこなしていく。今回はCo1200以上は雪が締まっており非常に歩きやすい。過去の記録にあるようなラッセルも特に無くさくっとピークに到着。南西稜に向かって叫ぶ。 ピークはガスガスビュービューなのですぐに東へ下りる。ピークからは真新しいトレースがあった。しかもこのトレースはどうやら北から南へ一方通行で縦走しているようだ。そんなことこの時期にやる奴なんて身内しかいないだろ……とか思いながら稜線を歩いていく。カムエク以降は視界50~100で普通に天気悪かった。がトレースや岩やハイマツでルーファイは容易。・1807から南の岩稜は日高側を捲いて通過。十勝側のぶったちを眺めて夏の1807東面のバーチカルハイマツクライミングを思い出してほっこりする。 岩稜帯を終えて・1602コルにたどり着くと、なんかイグルーを建設中の怪しい人影が。この瞬間歩きながらずっと抱いていた疑念が確信に変わった。そいつは全山挑戦中の♯上であった。近づいてあいつもこっちに気付き、お互い大爆笑。まあこの時期に稜線上で遭遇するやつなんて身内だよな。折角なのでイグルーをちょっと大きくして一緒に泊まる。♯上はシュラカバを家に忘れたので秀オリを購入して来てるらしいが、案の定シュラフがビチョビチョのペタンコになっていてかわいそうだった。イグルーのブロック積みが適当だったので雪が吹き込みまくった。(がんばって塞いだ)1/10 晴時々ガス Ω6(630)1823(830)コイカク夏尾根頭(1145)札内ヒュッテ(1530)=C7 二人ともコイカクまで行ければいいという計画だったので一緒に出発。流石に重荷の♯上と同じペースで歩くわけには行かないのでここで別れる。互いの安全と貫徹を祈って各々のペースで出発。 ここから1823までの稜線は何気にまだ歩いたことが無い。アイゼンでサクサク歩き、埋まるところはスノーシューに換え、無理やりスノーシューのまま1823峰ピークまで。下りスノーシューはちょっと微妙なのでアイゼンに換えて歩く。ピラトコミ分岐を越えてズボりはじめたあたりでまたスノーシュー。コイカク北面が神々しい。次の夢が膨らむ。コイカク岩稜はアイゼンにして日高側を捲いて通過。氷化した斜面にアイゼンピッケルが心地よく決まって快適。コイカクから夏尾根を下降。途中の岩稜は氷が張っていて今山行中で最も緊張したかもしれない。Co1300まで下りたらあとは安全地帯。スノーシューに換えて滑り降りてコイカク沢まで。雪の少ないコイカク沢はそれはそれでちょっとめんどかった。札内ヒュッテで快適に泊まるつもりだったが、1人だからか全然小屋が暖まらず、虫の死骸も大量で(掃除したけど)なんかつらかった。1/11 晴→雪 札内ヒュッテ(10:00)札内ダム(11:00)中札内道の駅(16:00) 朝起きたら小屋が寒すぎてつらかった。日が出るとむしろ外のほうが暖かい。小屋でこんなにつらいの初めて。掃除して出発。ピョウタンの滝越えたら誰か乗っけてくれるでしょと思っていたが、そんな甘いことは無く、100台くらいの車に素通りされながら札内ダムから最寄バス停道の駅中札内までの28kmの道をひたすら歩いた。最後のほうは精神崩壊しかけていたので後ろから追い越して素通りしていく車一台一台に呪詛の言葉を吐き捨てていた(完全に逆恨み、ごめんなさい)。 中札内のバス停から帯広へ行ってはげ天へ行ったはいいものの、猛烈な2つ玉低気圧によって道内各地は大荒れ、帯広も未曾有の大雪ということでバスとJRは前便運休。帯広駅で無事帰宅難民と化して途方に暮れる。ありがたいことに帯広在住のU野さん宅に停めさせていただくことに。本当にありがとうございます。夜はU野さんとお互い目をつけていたラインの話で盛り上がる。勿論、あそこはお互い目をつけていた……。 翌日もバスは運休で帰札できず、引き続きU野さん宅にお世話になる。色々と良くしてもらって本当にありがとうございました。 出発前は相当にやられるつもりで出かけたが、今回は稜線の状態が良すぎて結構ルンルンで通過して楽しく縦走できてしまった。できるならばこの稜線をまだまだずっと歩いて行きたいと思えた。でも、とても楽しかったというこの感情はきっと大切なのだと思う。自分の限界を攻めるスポート的なクライミングも勿論楽しいが、やっぱり僕は登山が好きなのだと感じることができた山行だったと思う。全部貪欲にやりたい。折角無職なんだ。クライミングも、山も、普通の社会人じゃ両立できないことをやってやろうじゃねえか。そんなことを思った25の冬でした。