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20.山と渓谷 田部重治(たべじゅうじ)/1932/第一書房/572頁


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表紙
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田部重治(1884-1972) 英文学者、登山家
 富山県室村(現富山市長江)に生れる。第四高等学校を経て、1907(明治40)年、24歳で東京帝大英文科を卒業。海軍経理学校で教鞭をとったのち、東洋大学、法政大学で英文学を教える。法政大学ではスキー山岳部長を務めた。
 東大在学中に木暮理太郎を知り、2人で毎日曜といってよいほど東京郊外を歩き回る。最初の山らしい山は、24歳の時の妙高であったが、木暮と言うまたとない友人を得て、活躍の場は日本アルプスへと広がった。1913(大正2)年には木暮と槍ヶ岳から日本海へ至る13日間の大縦走をやってのける。奥秩父の紹介者としても知られ、飛騨、秩父の山々で、日本近代登山史上にも特筆される未知の山稜や渓谷をたどる探検的な登山を行なった。「日本アルプスと秩父巡礼」を始めとする数多くの著書を残した。日本山岳会では幹事、評議員を歴任、同名誉会員。

内容
 田部重治が山行を始めた24歳からの10年間の紀行、随筆をまとめた「日本アルプスと秩父巡礼」が、1919(大正8)年、北星堂から出版された。この出版後10年間に書いた紀行、随筆を加えて、1929(昭和4)年、第一書房から「山と渓谷」として刊行された。572頁の大部である。山岳館所有の本書は1932(昭和7)年6月発行の第18版で、短期間での版の多さから見て、この本が如何に当時の岳人たちに読まれたか分る。内容に優れ、かつ装丁が質素で、同時代の他の山岳図書の半値である事も人気の一つであったろう。

 内容は、随筆20編、北アルプス関係13編、南アルプス関係2編、秩父関係14編、その他5編からなり、巻末に登山行程表、5万分の1陸地測量部地図参照表が添付されている。
 田部は、大学時代に木暮理太郎と知り合ったのをきっかけに、山に登るようになったが、故郷の山である立山、薬師岳に登り、一層強い感動を受けた(「薬師岳と有峰」(明治42,3年))。以後の「槍ヶ岳より日本海まで」(大正2年)は上高地-槍ヶ岳から黒部五郎岳を経て立山-剣へ、さらに早月川を下って日本海滑川までの13日間に亘る大縦走、「毛勝山より剣岳まで」「剣岳より赤牛、黒岳を経て大町に至る」(大正4年)は日本海魚津から毛勝山、剣岳、黒岳、野口五郎岳を経て大町へ下る9日間の縦走、「御岳と乗鞍岳との間の幽境」(大正9年)は木曽上松から御岳に登り、飛騨側へ下り、乗鞍岳へ、さらに野麦峠を経て奈川度から梓川を遡り上高地への山旅、そしてその他の紀行もいずれも探検的な要素を含む素晴らしい山旅である。

 自序で「大体において作者は、日本アルプスを紹介することよりも、秩父を描くことに力を入れた・・・・・」、そして「秩父の印象」(大正5年)では「しかし秩父の真に誇るに足るべき特点は、今迄繰り返し言ったやうに、山容その物にあるのではなくて、深林と渓谷の美にあるのである。」と述べている。笛吹川東沢の初遡行「笛吹川を遡る」(大正4年5月)は、その時の紀行を「見よ!笛吹川の渓谷は、狭り合って見あぐる限り上流の方へ峭壁をなし、その間に湛へる流水の紺藍色は、汲めども尽きぬ深い色を持って上へ上へと続いている。・・・・・」と驚きと喜びがそのまま伝わってくる文章で著している。

 田部の文章はゆったりと、忠実に、決して誇ることなく自分の行動を記述し、それがいずれもが内容のある山旅であり、紀行文である。社名であり、雑誌名である「山と渓谷」は、創立者川崎吉蔵が本書の書名を田部から譲り受けたものである。

山岳館所有の関連蔵書
スキーの山旅/田部重治編/1930/大村書店
紀行と随筆/田部重治/1934/大村書店
峠と高原/田部重治/1934/大村書店
山への思慕/田部重治/1935/第一書房
雪庇/田部重治/1937/帝国大学新聞社
山を語る/田部重治/1937/大村書店
山の憶ひ出(上)(下)/木暮理太郎/1938/龍星閣
山と随想/田部重治/1939/新潮社
青葉の旅・落葉の旅/田部重治/1941/第一書房
旅への憧れ/田部重治/1943/新潮社
旅路/田部重治/1943/青木書店
随想 山茶花/田部重治/1943/七丈書店
ふるさとの山々/田部重治/1944/六合書院
登山の今昔/木暮理太郎/1955/山と渓谷社
日本アルプスと秩父巡礼/田部重治/1975/大修館書店
わが山旅五十年/田部重治/1978/二見書房
忘れえぬ山旅/田部重治/1983/三笠書房

 
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