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92カムチャツカ第二次遠征 »

登山記録
イチンスカヤ・ソプカアタック,そしてハンガールへ

石橋英二


 6月3日、イチンスキーアタックの日である。前日、ペトロパブロフスクからトラックに揺られること6時間、ミリコヴァからヘリコプターで飛ぶこと1時間余りでベースキャンプに入った。B.C.の位置は予定していた北面ではなく、南西面の標高1800m付近となった。
 
B.C.から見上げたイチンスキーはやけに近く感じられる(実際には標高差1800mある)。空には雲も数えられる程でアタック日和。天気周期もよく分からないので行けるときに行かなければと、7時、全員張り切って出発した。パーティーはロシア人ガイド4人を含む総勢14人。大パーティーである。
 我々はスキーをはき、ロシア人たちはツボ足、フェージャとボーリャは下りでスキーをするためにシートラして登っている。岩の出た緩やかな尾根を登っていると、十勝の山にいるような気がしてくる。全くいつもと変わらない。2時間程度スキーで上がると尾根は傾斜を増し、岩混じりの斜面に吸収される。ここでスキーを脱ぎ、アイゼンを着ける。このまま正面の斜面を登るか、左へトラバースして上部の谷に入るかで意見が分かれるが、結局トラバースすることに決める。ロシア人3人は既に西側の谷をダイレクトに上部の谷目指して登っている。我々が何も言わないと彼らはどんどん行ってしまうので、これはまずいと上部の谷に入ったところで彼らを呼び戻す。もう一人の通訳兼ガイドのヴァレーリアは常に我々と一緒に行動して、我々と他の3人との橋渡しとなってくれた。
 上部の谷は、陸万合宿の光の谷のよう。スキーをしたら楽しそうな所だ。この谷からはピーク左手に見える大きな雪面を目指してトラバースぎみに登っていく。ラッセルもなく快調な登りなのだが、暑さと旅の疲れがとれていないのか、全体に歩くペースは遅いようだ。この暑さはなかなか曲者だ。6月の日の長い時期である。強烈な日差しと雪面からの照り返しで頭はボーっとし、顔は火照ってくる。喉も乾く。この日一日だけで真っ赤な顔になってしまった。 目指す雪面の右手には小規模な氷河が流れ落ちていて、巨大な氷のかたまりが青々と顔を出している。雪面に入ると幅は狭いがいくつかのクレバスが口を開けていて、中には雪で隠されたものもあり、ピッケルをさしながら慎重に通過する。ベースから見るとすぐに届いてしまいそうに思えたピークも、この頃には皆、その錯覚に気づいていた。いざ登り始めてみると一向にピークが近づいてこないのだ。遠近感がつかめていなかったのだ。日本の山とのスケールの違いを初めて実感できた。ヒマラヤのスケールはもっと大きいのだろう。
 今登っている雪面は傾斜も急で、新雪の下は堅い氷である。ジグザグをきって登り続けていると、日下が何度か足をつってしまった。ふくらはぎにはつらい登りだ。小倉も体調が悪いと言い出した。時間は既に1時を回っている。さてどうするかで1時間余りの議論。結局日下一人を残してピークへ向かった。この頃になると大分雲が湧いてきて、再び歩きだすころにはすっかりガスに包まれてしまった。ガスの中、変わらぬ傾斜の雪面を登り続けること1時間、数mの段差を登りきると、平らな頂上の一部にひょっこり顔を出した。視界が効かない中、恐らくここが最高点だろうという所で握手をかわした。15時30分。チャムラン登頂以来丁度30年。いくつものピークで掲げられてきたエーデルワイスの部旗を取りだし、記念撮影。喜びの声が響く。人数が多いので騒々しい位だ。入れ替わり立ち替わり写真を撮り合い、降り始めた雪にせかされるようにピークを後にした。
 下りは登りと違うルートを選んだ。ロシア人のガイドのアドバイスに従ったのだ。彼らのルートファインディングは確実で信頼できるといえる。パミールや天山の高峰に何度も登ったことがあるという。ガイドのひとりフェージャはピーク直下からベースまでスキーで滑降していった。全員感心することしきり。彼は、カーメンの4000m付近からスキーで降りたこともあるそうだ。一方の我々はアイゼンで慎重に下っていたことは言うまでもない。


 翌日から3日間、ヘリコプターが迎えに来るまで我々には特にすることがなかったが、こんな素敵な場所でのんびりできたのは何という贅沢だったことか。今の生活の何と単調なこと。街の生活の中であの時を思い出して時々ボーっとしてしまうのは私一人だけではないだろう。


 6月8日、快晴。11時頃ヘリコプターが爆音をとどろかせて迎えに来た。ハンガールB.C.への移動だ。ヘリコプターのパイロットはイチンスキー一周というサービスをしてくれた。予定していた北面のルートは大きな氷河が発達し、厳しそうに見える。その後の景色は山また山。果てしなく続いている。イチンスキーのB.C.から見えた山々の上空を通過していく。魅力的な山々が次から次へと現われてくる。最後にハンガールの火口湖の上を飛び、B.C. に着陸。周りをぐるりと山に囲まれた気持のいいところだ。予定していたハンガールの東面である。雪の消えたツンドラの上にテントを張る。近くの沢には水流が顔を出しているところがあり、水を汲むことができる。地面には直径5cm位の穴がいくつも開いていて、イブラシカという地リスの仲間が時折そこから顔を出して愛嬌を振りまいてくれる。


 6月9日、今日も快晴。ハンガールピークには2時間余りで着いてしまった。技術的にどうというところはない。下りは一気に尻セードで下った。
 ハンガールは絶好の展望台だ。眼下には火口湖が白く、遠くにはイチンスキーがひときわ高く、大きい。周囲にはアルプスの様な山から大雪の様な山まで、名もない山々が広がっている。遥かかなたにクロノツキーの姿も見ることができる。これだけのフィールドが身近にあったらと考えると、ワクワクするようなプランがいくらでも湧いてくる。しかもこれらの山々にはほとんど人が入っていない。手付かずの自然が残されているという。これから北大山岳部が目指す山域としてカムチャツカはまさにうってつけと言えるだろう。


 6月11日、ヘリコプターはやって来た。再訪の思いを胸に我々はヘリコプターに乗り込んだ。


 
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