AACH画像アーカイブス事業で収集された写真をもとに,2007年末に「北大山岳部80周年記念写真集」を発刊しました.この冊子は,手作業で1ページ1ページ印刷して製本した都合上,部数に制限があり,当初予約いただいた会員に限定頒布いたしました.
巻頭 「ご挨拶」より
北大山の会会長 西 安信北大山岳部々報第1号は1928年に刊行されたが、その中の「年報(1926.11-1927.3)」に、山岳部發會式が大正15年11月10日午後7時に北大學生集会所に於いて行われ、「山岳部設立について」:伊藤秀五郎、「山岳部々長挨拶」:栃内吉彦博士、「山岳部の仕事について」:澤本三郎らの演説があった。さらに、主任幹事には澤本三郎、庶務幹事には伊藤秀五郎らが選ばれた。また、予科講師グブラー氏の幻燈機によるスイスの登山の解説は大いに有意義なものであった。出席者は来賓を含めて約70名と記されている。その直後の12月22日より新見温泉に於いて総勢47名が参加して7日間の冬期山岳部スキー合宿が行われ、参加者にはリーダーの澤本三郎、伊藤秀五郎らに混じって若き頃の井田清、山口健児、渡辺千尚、山縣浩、中野征紀らの名前がある。
また、山岳部の創設を主導した伊藤秀五郎(1905〜1976)は同部報に「山岳部の誕生」と題する一文を寄せているが、「然し今日の山岳部の誕生は、已に遠く大正九年、恵迪寮旅行部の設立と同時に胚胎していたのである。−中略− 実は山岳部はスキー部の血も立派に引いているのである。だからほんとは、スキー部と旅行部とを両親にもった甚だ恵まれた赤児として生まれたのであった」と記し、北大山岳部が実質的な素地を有し然るべくして誕生したことを述べている。
さて、誕生して以来80年間の実績と伝統について述べることは別の機会に譲ることとして、1995年の北大山岳館の建設を契機として、多くの会員及び関係者の協力で山に関する多数の蔵書・雑誌・地図などが寄贈・収集・整理されてきた。「山に関する写真・フィルム類の整理保存も山岳館のarchives機能の一つであることを忘れてはならない。亡くなられた会員や高齢の会員の貴重な資料が散逸しつつあり、また埃を被った資料も多いのではないか。資料収集は現役部員の記録までも含めて幅広く行い、これを通じて山の会会員相互及び山岳部現役との一体感をより強いものとすることができる。」という中村晴彦会員(1958年入部)の提案は2005年7月開催の北大山の会総会にて、全会一致で山岳部創立80年の記念事業として採択され、短期間に精力的に実施に移された。これまで山岳部創立前より現在に至る80余年間に記録された写真のうち厳選された8000点強が電子ファイル化され会員の閲覧に供される運びとなっているが、この度その中から北大山岳部の歩みを物語る338点の写真を選び小冊子に纏めることが出来た。
ここに至るまで写真のご提供を戴いた物故会員のご家族ならびに会員諸氏に対し、また病床にありながらも古い写真の人物や山名の同定にご協力を戴いた朝比奈英三、有馬純両会員、癌と闘いながらもデーターベースソフトの開発にご尽力を戴いた故芝山良二会員と同夫人敏子様、アーカイブス事業の発案から終始凄まじい情熱を注ぎ込み完成にまで至らせた中村晴彦会員とそれを支えて下さった野田四郎他の会員、更に金品のご支援を賜った多くの会員ならびに関係諸氏に深甚の感謝の意を表する次第である。そして多くの伝統ある大学山岳部が存続の危機にさらされている中にあって、この冊子を完成させた北大山の会会員の固い結束が、我々が青春の情熱を注ぎ込んだ北大山岳部を永遠に存続させる一里塚となることを願っている。
北大山岳部部長 鐙 邦芳北大山岳部は今年,創立80周年を迎えた。初期には北海道中央高地ついで日高山脈の山嶺の冬季初登が続き,1943年には最後に残ったペテガリ岳の冬季登頂もなされた。戦後は,日高山脈の冬期全山縦走と直登沢遡行など道内での登山からチャムラン登頂,ナラカンカール遠征が続いた。1982年末には北大山岳部・山の会の組織力が厳冬期8000m峰(ダウラギリ)の初登頂として結実した。その後,日本の経済力の伸張とともに海外への渡航は著しく簡便になり、1980年代からは多くの海外登山が山岳部の現役部員,山の会会員により達成されている。
連綿と続いてきた北大山岳部・山の会の歴史は部報,報告書などに優れた文章として残されてきたと同時に,多くの写真画像も蓄積されてきた。しかし部報・報告書に掲載されてきた画像はごく一部にすぎず,大部分は会員個人のもとに死蔵されていたと言って良い。貴重な記録画像も時の経過とともに散逸・劣化することは必定である。2005年から画像をデジタル記録として整理し,一般公開することを目的とするAACH画像アーカイブス事業が中村晴彦会員を中心に提起・実践されてきた。この事業の創生には故芝山良二会員によるプログラム開発が大きく貢献している。その後の事業は有志会員,現役部員、芝山夫人らにより実践されてきた。部員・会員による山行・遠征の記録として貴重である膨大な記録画像の中には,芸術性の高いものも数多く含まれている。画像アーカイブス事業も一段落し,記録画像の中から記録としての重要性,芸術性を主眼として選択され写真集となった。貴重な個人的時間を費やし,編集・作製したアーカイブス事業作業委員各位に敬意を表するとともに,本写真集の完成を期に,今後の映像アーカイブス事業の継続・発展に多くの会員が協力してくださることを期待する。
「あとがき」より
2005年(平成17)年7月の山の会総会で、80周年記念事業として記録写真保存計画(以下アーカイブス事業)が承認されてから2年が経過しました。写真提供者名簿に記載のようにこの2年間に会員、ご遺族、その他46名から写真の提供をいただきました。それらの中からデータベースに取り込んだ写真は、2007年7月現在8000点強となりました。未整理で今後収録予定のものを入れるとおそらく9000点を越えると思われます。しかし、作業委員の力不足で山岳部の歴史を見る上でぜひ入れておきたい山行などが、多々未収集です。アーカイブス事業は、80周年記念祭の行われる2007(平成19)年12月で終了しますが、これらの映像の収集とデータベースへの取り込みは、山の会が今後ともぜひ続けて欲しいものです。山岳部80周年記念写真集は、アーカイブス事業計画の締めくくりとしてデータベースに収録されている映像を使って、バラエティに富んだ北大山岳部80年の歴史を俯瞰しようとしたものです。データベースの映像を通覧すると、時代の流れを見ることが出来る程度に収録されていると思います。写真集ではその流れに沿って編集しましたが、見て面白かったと思っていただければ幸いです。そして、古いOBは新しい時代の、新しい世代は古い山旅に思いを馳せていただければ、アーカイブス事業が目指した映像を通じてのAACHの新たな連帯感が生まれるのではと思います。
写真集は、山岳部創立前の大正期を含めて時代を8章に分け、各章の冒頭に時代の特徴を概説しました。写真集に採用した338枚の写真は、データベースの中からその時代のエポックメーキングな山行を中心に、その時代の特徴を現している山行、海外遠征、合宿などを採り入れてあります。合宿などの集合写真からは、装備や部員数の変遷などがお分かりいただけるでしょう。
写真集の出版について、レトロな内容の出版物は売れないだろうという意見、予想販売部数から1冊あたりがかなり高額になるだろうと言う試算、部報14号が出たばかりで山の会に資金的な余裕がない等の理由により大量印刷、市販はせず、アーカイブス事業作業委員による手つくりとし、表紙印刷と製本のみを印刷所に依頼、部内のみへ廉価で提供する事にしました。これが可能になったのは会員有志から金品の寄付があったためです。ご寄附を頂いた有志の方々、お陰様で写真集を作ることが出来ました。厚く御礼申し上げます。写真集でありながら、画像処理が適切でないために見にくい写真がありますが、編集、印刷の全てが素人による手作業という事情をご賢察いただき、ご容赦くださいますようお願い申し上げます。
写真の提供を頂いた方々、山岳館まで足を運んで作業に協力いただいた方々に対して感謝申し上げます。病床から最後の力を振り絞ってアーカイブス事業のためにデータベースシステムを構築してくれた故芝山良二会員と、夫の意思を継いで2年近くにわたり写真のスキャン作業を手伝っていただいた敏子夫人にあらためて衷心より厚く御礼申し上げます。
北大山の会記録写真保存計画
作業委員 中村晴彦
画像アーカイブス事業の概要 |
80周年記念写真集DVD版 |