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山の会昔語り・ 2006年3月21日 (火)

山の会裏話ー(7)
校舎の屋上からアプザイレン


                         北大山の会東京支部・木村俊郎(1950年入部)
 夏山も終わるとルームに現れる新入部員の顔ぶれも決まってくる。ルームに入りびたりの者、たまに顔を出したかと思うと、とてつもなくデカイことを言う人、書棚からひっぱり出したスウェンヘディンなどを黙々と読みふけっている人、夕方になって、ひょっこりと来るのが癖の人、など等。
 こんな頃のある日の午後遅く
「アプザイレンをやってみるか」と
N先輩が声をかけてくれた。懸垂下降の練習だな、とは思ったがどうするのか分からないままついて
行った。
 先ず備品棚を開けるとザイルがあった。アーサービル、セクリタスがそれぞれ一本とえたいの知れな
い国産品が何本か吊るしてあった。一本を肩に掛けてルームを出た。
 当時、ルームは北九条西五丁目、すなわち正門前のすぐ脇で、その向かいに法文学部の鉄筋コンクリート四階建てのビルがあった。
 法文学部の階段を昇って屋上に出ると壁面には手頃な鉄環が設置されていた。これにカラビナをかけると立派な支点。カラビナにザイルを通してから
「末端はしっかり結び合わせろ」と、言われた。
考えれば当然のことだが権威あるサゼェスチョンに先ずは感服。
 ザイルのかけ方には、腿から首を回して垂らすデルファ式だの足だけにかける足がらみ、腿だけに
かける腿がらみ等を習ったが、一番確実そうなズボンつり式とかいう方法で降りることにした。
 いよいよビルのてっぺん立ち、爪先をへりにかけ体を反らせて下を見た瞬間には肝を冷やした。我
々旧制中学で入学した者は同輩にも岩登り経験者は殆どいなかった。それを知ってか、この先輩は、
「この前の誰それは降っている途中真中あたりで、ザイルがもつれて下りも上りもできなくなった」
とか
「誰それは一番上で体を乗り出したとたん、顔面蒼白、硬直して全然動けなくなった」
とか言っておどかす。ところで、こんなトレーニングを下から見ていた女学生が何人もいたことを卒業後大分たってから知った。
 北十六条西二丁目にはミッションスクール藤高女があった。現在の藤女子大学である。
 彼女達は下校の折、西五丁目の通りを徒歩や電車で通る人が多かったそうだ。当然、法文学部の
直ぐ下を通って何時もビルを見上げてたわけで、ビルの上からロープを吊り下がった変な連中を目
撃したのも偶然ではなかろう。
「山岳部の人でしょうね」
とまで言っていたそうである。こんなことを小生が知っているのは、これを見ていた人の一人が数年
後に小生のところに来たからである。。そして今も居るからである。
 ところで、当方は勿論、二、三年後の後輩までは旧制中学の入学なので「男女七歳にて席を同じう
せず」の時代である。
「麗しのメッチェンだ!」
「チョーリツか?=廳立高女」
「フジかな?=藤高女」
なんて言いながら、言葉を交わす訳でもなく、ましてや「喫茶店に誘うなど、もってのほか」といった、ヤボな時代であった。

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