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書評・出版・ 2011年6月7日 (火)

(書評)北海道の登山史探究 米山悟(1984入部)
高澤光雄さんは北海道登山史家。その黎明期を知る人物たちとの直接の交流、そこから受けた啓発により、埋もれた山登りの記録の丁寧な発掘、読み込みで、独自のテーマで道内の山の歴史をまとめてきました。これまで「山書研究」 やあちこちに興味深いテーマで小文を発表してきた。あまり出回る本としてはこれまでにまだまとまっていなかったので、今回が初めての待望の一冊です。先ごろ「北海道の登山史」という本の紹介もしましたが、こちらはそれに「探究」がつく深煎り本です。高澤さんの探究ワークをご覧ください。

もくじより
登山の沿革
アイヌ伝承の山
阿倍比羅夫の後方羊蹄遠征について
地図と測量登山の歴史
北海道の出版文化史 山岳とスキー
北海道の山に貢献した明治二十四年創立の札幌博物学会会員たち
日本山岳会創設に貢献した札幌農学校出身の志賀重昴
北海道から最初に日本山岳会に入会した河合篤叙と蝦夷富士登山会
ペテガリ岳遭難でイグルーを実用化した北の登山者たち
日高山脈を描き続け、ペテガリ岳遭難で活躍した坂本直行
ニセコ山系遭難慰霊・警鐘碑の建立
北海道における自殺山行三例
探索・増毛山道と武好駅逓
板倉勝宣とアルペンツァイトゥンク
「山とスキー」について
「山日記」に掲載された戦前の山小屋


高澤さんとは、僕がイグルーで「テント持たずに自由な雪山を登ろう」という趣旨の記事を岳人誌に掲載したことについて、高澤さんの北海道のイグルー史をまとめた秀岳荘の記念誌に言及したいという連絡を頂き、札幌でお会いしたのがご縁。本書でもある、北海道のイグルー事始めにつき、山岳部の関係者よりも詳しいいきさつを取材されていた。
高澤さんの書き物の切り口は独特で、古い文献を足しげく通い丹念に読み、生存者には手紙を書いて確認を取る。お会いしたときにも、AACHにイグルーを伝えたフォスコ・マライーニ氏が初の十勝連峰縦走計画をした際の北海タイムズの切り抜き記事を見せていただいた。図書館に行って調べ挙げたのである。昭和18年ペテガリ冬期初登のイグルー山行のアイディアをマライーニ氏から得たかどうかの確認も、今村さんご本人に手紙で確かに行っている。

阿部比羅夫が本当に北海道の後方羊蹄山まで来て異民族と戦ったのか?これについての資料を簡潔にまとめてある。僕は3年ほど青森に住んでいて、この7世紀8世紀に東北がエミシの国であってヤマトとの諍いと混血の時代だった事を知り、ますますアイヌ史に興味を持ったのだけれど、古文書が指す蝦夷の実際の場所は北海道なのか東北なのかあいまいなのである。本書で羊蹄山に関するその日本書紀以来の国威発揚記事に眉唾しながら読むとますます真相は分からない。特に明治期は、対外的にも、国内的にも、北海道が昔から日本だったことを強調したくてその希望解釈と怪しい発掘調査が多い事も分かる。けれど、丹念な記事のまとめで、「まだ、よくわからないんだ」ということがよくわかる。深田久弥の日本百名山でさえ、松浦武四郎の3月羊蹄山登頂がフィクションであることを見抜けなかった下りは、僕も信じていたので驚いた。

高澤さんの記事は、誰もまとめて調べていないテーマ、独自ネタの発掘である。羊蹄山の山岳会が日本山岳会よりも古い話、日本風景論の著者が札幌農学校生だった話、増毛山中にあった武好駅逓を訪ねる話。それから北大山岳部創立前のスキー部時代に出された野心的な山行記録集「山とスキー」や板倉氏による「アルペンツァイトゥンク」のまとめなど。確かに調べれば分かるかもしれないがこれまで、ここまでとことん調べて来た人はこの人が一番だろう。

文系の卒論とはこういうものかと思った。たくさんの人が考えたり書いたりして来た事をまとめ、それを同じ事を調べたがっている未来の誰かのために花束の様に整え、最後に自分で工夫を凝らしたリボンで結んで、贈り物にする。たくさんの卒業論文をまとめたような本だ。これまで本にならなかった理由もそのあたり、資料のレファレンス性の傾向の強さで、味気ないと思われたせいかもしれない。でも興味を持つ人にとって、これはとてもうれしいプレゼントになるはずだと思う。ほかにもたくさんある高澤さんの貴重な原稿を、是非手に入り易い形で本にしていただきたいと思う。

著 者 高澤光雄 (著)
出版社名  北海道出版企画センター
発行年月  2011年 06月
ISBNコード 9784832811065
ページ数  252P
定価  ¥1,260(税込)

高澤氏のこれまでの主な編著書(巻末より)
北海道登山記録と研究 札幌山の会 1995
北海道の百名山 北海道新聞社 2000
山の仲間と五十年 秀岳荘 2005
新日本山岳史 ナカニシヤ出版 2005
北海道中央分水嶺踏査記録 日本山岳会北海道支部 2006
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