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書評・出版・ 2007年6月12日 (火)

書評・ganさんが遡行(ゆく)北海道沢登り三昧/米山

image


『ganさんが遡行(ゆく)北海道沢登り三昧』

岩村和彦著 /共同文化社

全26ルート 初級中級
2100円
昨年夏に紹介した道内沢登り記録集の続編。今回も26本。山域は、I.道央積丹増毛夕張、II.日高、III.道南に絞っている。

ルートはすべて初級者向けである。しかし、これは経験者向けの本でもある。それは、地形図を見てこれはとあてを付け、情報無しで、現地で確かめた沢が沢山盛り込んであるからだ。この過程こそ経験者が共感する楽しみではなかろうか。


ガイドブックを見て行く沢登りはそのうち飽きる。本や雑誌に紹介されているハズレのない沢を一通り登ったって、何の自慢にもなりはしない。沢登りの喜びの本質は、行ってみなければわからないがおもしろそうな未知の沢を嗅ぎつけることであり、結果少々レアな山頂を踏めれば満足だ。この本ではトイレに地形図を持ちこみ、著者が嗅ぎつけ、実地で探り当てた粋な沢の数々が並べられている。この課程が、経験者向きたる所以である。経験者たるもの、日本百名山なんかにうつつを抜かしていてはいけない。地形図をくんくん嗅いで、「オレのライン」をどうデザインするかではないだろうか?

著者は巻末に「山のトイレを考える会」代表とあるが、「山をトイレで考える会」でもあるようだ。

収録ルート
I 道央・積丹・増毛・夕張山塊の沢
●蝦蟇沢→札幌岳●漁川→漁岳●発寒川→871林道●狭薄沢→狭薄山●ラルマナイ川→空沼岳●漁入沢→漁岳●大沢→風不死岳●豊平川本流→1128●幌内府川→余別岳●黄金沢→635●ユーフレ川本谷→芦別岳

このあたりは札幌から近いこともあり、学生の頃大方登った普通のルートだ。でももう昔のことなのでほとんど記憶に残っていない。いつか札幌周辺にでも住んだら老後の楽しみにでも取っとこう。山岳部なら1年班にお勧め。この山域にはサスガに新発見沢は無かった(大沢は知らなかった)。

II 日高の沢
●貫気別川南面沢→貫気別山●芽室川北東面直登沢→芽室岳西峰●額平川北カール直登沢→幌尻岳、戸蔦別岳●カタルップ沢→神威岳●リビラ沢西面→リビラ山●沙流川455左沢→1042●額平川400右股→苦茶苦留志山●パンケヌーシ川5の沢→1753●ウエンザル川北面沢→1073(宇円沙流岳)●コイボクシュメナシュンベツ川→十勝岳●シュウレルカシュペ沢→イドンナップ岳

・・・どうでしょう。山岳部によくある記録のパターンを完全に逸脱しています。どうせブタ沢だろう〜?と思って、挑むのをやめてこなかったか?ここに紹介してあるのはいづれも美しい渓相の沢ばかりなのだそうだ。貫気別やリビラは、この冬行ったばかりなので目を引いた。やはり、道から行ったんじゃあつまんない。良さそうな沢は無いか、良さそうな雪のルートは無いかと探す気持ちが共感する。苦茶苦留志山?おもしろそうだ。芽室の沢やカタルップなどは冬ルートのすぐ隣。気にしたことも無かった沢だ。

しかし、こうして探査した沢の中には、とても御紹介できないブタ沢も数多くあったことだろう。続編では「ブタ沢だけどこのレアピークに行くためにはこれを行くしかなかった!」という沢の特集をぜひ読みたい。

III 道南の沢
●鷲別来馬川裏沢→鷲別岳●泊川→大平山●浄瑠璃沢→冷水岳●松倉川→アヤメ湿原

道南在住者としては、日高のノリでの新発見沢を期待したが、それは僕たち住民がやるべきでしょう。札幌に住んでいると道南は遠い。僕も以前は全く関心が湧かなかった。しかし最近ganさんに加えHYMLの沢好き函館在住メンバーによってこれまであまり知られ無かった美しい沢の報告が相次いでいる。黒松内岳の沢や、大千軒の南の沢など。探せばまだまだあるものなのだ。

実はまだ松倉川に行っていない。函館ももう三度目の夏を迎えてしまった。今年こそは行ってみよう。



  • コメント (5)

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コメント一覧
米山   投稿日時 2007-6-22 21:21
長尾さま、gan さん

出版、著者さま直接の感想ありがとうございます。山の本というジャンルはなかなか次々とは出ないので、書評も通常は古書ばかりです。そんななか近頃、道内のマイナー山域の山行の本がちらほらあって嬉しいところです。

今後とも活躍を期待しています。おもしろい山行記録読ませてください。
gan   投稿日時 2007-6-20 8:52
米山さん、こんにちは
ganです
この度は拙本をご紹介下さり、誠に有難うございます
北大山岳部の学生が行くにはあまっちょろい沢ばかりですので、大して参考にはならないだろうと思います。

沢登りの醍醐味は色々ありますが、何と言ってもその最たるものは、事前情報のない沢を地図だけを頼りに遡行することに尽きるでしょうか。
結果、それがブタ沢だったとしても私には何も後悔するものではありません

もう私はロートルの部類に入りつつありますが、多くの若者が沢登りの世界に入って、精神と肉体を存分に鍛えてもらいたいですね

藪漕ぎ専門の人知れない山、何て本魅力はありますが、果たして出版社がOK出してくれるかな

函館・松倉川、転勤前に一度行かなければ罰が当たりますよ
では、また
共同文化社 長江   投稿日時 2007-6-18 12:52
米山様 新刊を早速にご紹介いただきありがとうございます。
本の読み込みの深さは、さすが山の専門家ですね。ルートについても、詳しく解説いただき、きっと興味をそそられる方が多いと思います。北海道の沢登りはこれからが最盛期ですね。皆様、怪我の無いように楽しまれることを願っております。
本書が、皆様の沢登りのご参考になれば幸いです。
米山   投稿日時 2007-6-14 20:47
野入や松田君が函館からいなくなってしまったので二つ返事で付き合ってくれる道南の沢仲間がなかなかおりませぬ。今年は素人さんを鍛えて付き合わせようかと考えています。
のいり   投稿日時 2007-6-14 13:10
米山さんお久しぶりです。早いもので今年も沢の季節がやってきましたね。ここ数日は記録的な暑さと報道されてるし、積雪が少なかったので雪渓は少ないんでしょうね?
松倉川は上二股から右又に入ると30mの大滝があります。なかなか圧巻ですよ。いつも左又からアヤメ谷地に上がって、右又は下降にしか使ったことがないですが。滝の下は魚影が濃いです。
南茅部の常呂川は小さいですがずっと函状で意外と手強いですよ。お勧めです。
 
 
 
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