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書評・出版・ 2016年6月24日 (金)

【読書備忘】外道クライマー宮城公博 米山悟(1984年入部)
セクシー登山部のなめたろうさん。那智の滝からの4年の軌跡です。沢登りする人の紀行文、記録文は、名文家が多いけど、宮城さんのようなのは初めて読みました。痛快娯楽書というか、チャーカンシーを攻める大西、佐藤たちがルパン三世の次元や五右衛門に見えてくるほど生き生きと描かれています。

大西が滝つぼから生還する下りなどはおみごとなもの。戦艦大和や孫悟空の比喩は興奮気味だけど、それだけすごい激流で絶望的状況であるのはよくわかる。ルートはもちろん世界最先端の未踏域ばかりです。岩峰を、「力道山の朝勃ち」に形容するあたり、語彙が諧謔的に豊かです。数十日の山行を黙々とやっていると、言葉が頭の中で沸いては消え沸いては消えるもの。大切なのはそれを消えないように捕まえておくことだとおもう。
「外道」のタイトルは逮捕を受けてのことだろうか。那智の滝逮捕を聞いたときには、我ながら逮捕の言葉に多少ビビったのが恥ずかしい。被逮捕経験は、サラリーマンや常識人にとって、やり直すことのできないほどの痛手には間違いない。しかし、サラリーマンの知人ばかりと付き合っていると錯覚するが、この世には自営業者、創作者、自活民、狩猟民・・・、人に雇ってもらわなくったって、図太くあるいはか細く生きている人はたくさんいるんだ。誤認逮捕だって山ほどあるんだ。警察発表、マスコミ発表に依存しない、ほんとうに人を見る目を持つ人と関わりを持っていけばよい。事件後の3人は職を失いそれなりにつらい別れはあったろうが、これを契機に長期の画期的山行に行く人生シフトを手に入れるチャンスになった。あの地獄のようなゴルジュの底から這い上がる力を持った人たちだ。当然と言えば当然の話だ。3人のこの4年の活躍は、山愛好家ならみな知っているだろう。

チャーカンシー、称名滝、ハンノキ滝、称名の廊下というスーパークライミング記録が挿入されるが、本書のメイン記録は未知未踏に対するこだわりを持ちながらも、スマフォで音楽を聴きながら登るようなタイのジャングル沢山行の話がメインだ。「頼りない相棒」との、泥沼、藪こぎがほとんどの46日間タイのジャングル沢の記録だ。「相棒」氏との殺意をいだくほどの心の葛藤がまるで小説のように描かれている。ヒマラヤ遠征隊など長期山行で人の嫌な面がむき出しになってくると、誰でも覚えがある「たかがメシの盛りひとつで殺意」のテーマ。豊かな日常じゃそんな恥ずかしいこと起きないけれどね。

「山を目的にしてその他一切を捨てて生きている沢ヤやクライマーが魂を込めて挑んだ未踏峰やゴルジュ、それらは冒険といっていい。」p123
「魂を込める」使い古したくない美しいことばだ。

あとがきの角幡氏の「宮城はそもそも表現者だった」という話に納得する。映像表現はセクシー登山部HPで衝撃的に突きつけられていた。そして山登りはそもそも反社会的行為であるのだということを那智の事件は我々に見事に突きつけたのだったというくだりは、私も学生のころからいつもずっとそうなのではないかと思っていた。山登りがどうして反社会的行為なのかわからない、という人はもちろん多数だ。しかし彼らは、自由な山登りからは遠いところにいる。

あすは海外遡行同人の2016年総会で、また彼らの今年の報告を聞ける予定です。聞くばっかりで申し訳なし!

四年前の7月16日記事
https://aach.ees.hokudai.ac.jp/xc/modules/AACHBlog/details.php?bid=680
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